アシナガ日記




アシナガ


 5月、アシナガバチがベランダに巣を作った。2.5センチぐらいの小さい巣。洗濯機の陰にちょこんと。アシナガは外敵の襲撃を避けるため、アパートの階段下など、目立たないところに作る。人間がひんぱんに出入りする場所に作ったハチは、うっかりしていたのだろうか。

 巣作りし始めて一か月ほどたった頃、子(働きバチ)がかえった。一家は3匹になった。巣は相変わらず小さい。巣作りにエサ取り、一切を親バチ一匹でこなすから、拡張が思うようにいかない。

 その後、個体数の増加に伴って房が継ぎ足され、水平に広がっていった。巣のサイズは8.5センチになった。個体数に較べて巣が小さいので、夜、全員がしがみつくと巣全体をおおってしまう。


 居住空間にアシナガバチが巣作りしたのはこれが初めてではない。10年以上前、今はもう取り壊された古いアパートに住んでいた頃のこと。トイレの窓は木枠が縦に数本あるだけで、ガラスが入ってなかった。木枠の内側に作りよった。

 最初は物珍しく観察してたが、どんどん増えてトイレがハチだらけになった。網戸用の網を買って空間を二分した。そっちはハチの領域。こっちは人間の領域。用を足しながらじっと眺めた。

 次の年もやってきて、また巣を作った。しばらくして、親バチが消えた。事情はわからないが、死んだのだろう。幼虫が成虫になる前だ。このままでは一家全滅。帰ってこなくなって三日ほどたってから、やむなく給餌した。ハチミツを少し薄め、スポイトで与えた。心なしか幼虫の体が細っていた。

 毎日根気よく給餌しつづけるうち、一匹か二匹が死んだほかは生き延びてくれた。サナギになり、成虫になった。親バチが死んだから繁殖しないという予想はあっさり裏切られた。働きバチたちが卵を産み、巣を拡張し始めたのだ。親はなくてもなんとやらというか、なんてたくましいやつらなんだ。


 この時期、一度だけ刺された。スリッパにもぐりこんでるのに気づかないで履いた。相当痛く、流水で冷やした。いたずらもののハチは、悪びれたふうもなくスリッパからノコノコと這い出てきよった。むこうもいきなり足つっこまれて、びっくりしたんだろうけどよ。

 この時点で抗体ができたとしたら、次に刺された時、危険だ。その後、山中で道を見失ってうろついた時、スズメバチの一群と鉢合わせし、一斉攻撃を受けた。入院し、抗体検査を受けた。アシナガ、スズメバチ、ミツバチ(刺されたことがある)。すべて抗体なし、だった。


 スズメバチと違い、アシナガバチはおとなしい。よほどのことがない限り、人を刺さない。それでも洗濯する時は注意が必要だった。立っているそばでハチがしょっちゅう出たり入ったり。気の弱いやつは僕が立っているだけで引き返そうとする。

 洗濯してる最中、巣の連中はじっと僕を見上げている。うっかりしてしぶきがかかると右往左往する。怒って反撃してくるやつはいない。

 ハチの古い個体は体色が色褪せていく。黄色の部分はくすんだ白になり、黒い部分は濃い灰色になる。古いといってもたかだか3か月程度。それで年老いていく。寿命の短い生き物だ。


 9月の初め、巣だけ残してハチが一斉にいなくなった。1匹だけ戻ってきたものの、すぐにいなくなった。

 それまでなんの兆候もなかった。彼らはどこへ行ってしまったんだろう。今は若いハチたちが来年の繁殖にそなえて栄養補給にいそしんでるのだろうか。

 来年また来るかもしれない。「ここは安全だった」と判断したのなら、同じ場所に作るかも。今回は小さな家族だったけど、百匹単位の大家族にベランダを占拠されたらと想像すると、とても心安らかでいられない。



アシナガ

ひょっこり通信 2003.3.16




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