鬼の子


1.

  おんのこ おにのこ どこにいる
  でてこい かおだせ かくれるな
  おんのこ にげたぞ おいかけろ
  おんのこ おにのこ つかまえた

 トキは、びくっと身ぶるいし、夢からさめた。
 敷きワラからはみでた指が冷たい土にふれる。顔を上げると暗いほら穴の奥。ゆきどまり。いつもの場所の、いつもどおりのワラの寝床。トキは安心して、ホッとひとつ、ため息ついた。
 汗をかいていた。人間の悪童どもにはやしたてられ、追いまわされている夢だった。夢のかけらはまだトキの体にまとわりついていた。トキは鬼の子だった。
 体を起こしたトキは、母親の姿がないのに気がついた。

「かあちゃん、かあちゃん」
 トキは、母親を呼び求めて暗いほら穴の中をひたひた歩いた。しっけた土が足の裏にぺたぺたはりつく。

 出口からパチパチはぜるような音が聞こえる。外は暗くなっていたが、ゆらめく炎がほら穴を出たあたりだけ、ぼうっと明るく照らしている。
 脂っこい、うまそうなにおいがトキの鼻を刺激した。魚をさした枝が、火をとりまいて地面に突き立ててある。ぼろをひっかぶった大きな背中がトキのほうに向けられ、壁のような黒い陰を見せていた。

「かあちゃん」
 やせた顔がふり返り、トキにやさしげな笑顔を見せた。
 トキのかあちゃんは、よく火のとおっているのを一本引き抜いた。

「トキ、こっちへいらっしゃい。そこにお座り。寒くなってきているから、もう少し火の近くへ寄りなさい」

 トキは寒いのには慣れっこだったから、火にあたって熱を感じるまで、風が冷たいのもわからなかった。たき火の前に座るトキの手に、かあちゃんは魚を持たせた。強いにおいがたちのぼり、トキの鼻をくすぐった。
 ひと口かぶりついたとたん、よだれがあふれ、空きっ腹がよみがえった。朝からほとんど何も口にしていなかった。何も言わず、汁を垂らして骨までむしゃぶり食った。かあちゃんも一本とり、熱い身を引きはがして口に入れた。

「ゆっくり、食べなさいね」
 食べ終わったトキに、もう一本抜いて渡した。

 かあちゃんは、家々の明かりが点々と灯るふもとの村を見やった。その中で、村の端にある神社の参道あたりが、ひときわ明るく見える。山寄りの道にも点々と明かりが続き、ゆれて動いている。
「今夜はお祭りだよ。にぎやかなことだろね」

 祭りは、もとは厄除けの祈りをしたのに始まったもので、神社の小さなまつりごとにすぎなかった。それが今では村総出の祭りとなり、盛大にとりおこなわれるようになっていた。
 人間たちは祭りを楽しみたくて、夜がふけるまで大勢くり出してくる。かすかにざわめきが届く。トキは、誘いかけるような光のゆらめきを、じいっと見た。

「かあちゃん、おれもお祭り、見にいきたいなあ」
 かあちゃんは首をふった。
「だめだめ。鬼の子がみんなのいるところに出てったらどんなことになるか、わかってるでしょ。よってたかっていじめられるだけよ。角も牙もなくったってだめ。鬼だってことは、お前のその赤い顔を見ればすぐわかってしまうんだから。そしたら人間たちにとりかこまれて、しばり上げられてしまうんだからね」
 おどすようなそのことばに、トキはぶるっと体をふるわせた。

「特に今日のお祭りは、鬼払いの儀といってね、鬼をほうきや熊手でたたき出す神事がとりおこなわれる祭りなのよ。そんな時にのこのこ出てったら、いったいどんな目にあわされるか。考えただけでもおそろしい」

 トキは食べる手を止め、目を大きくみひらいた。
「おれとかあちゃん、たたき出しにここまで来るのか?」

「ううん。ここまで来たりはしないの。人間が鬼の役をして、神社からたたき出されるの」
 トキはそれを聞いてホッと安心した。満ち足りないおなかが求めるまま、三本目の魚に手を伸ばした。

「こちらのにしなさい。それはまだ片側が生焼けだから」
 トキは一本引っこ抜き、喋るまも惜しむように、脂のしたたる魚にかじりついた。

 ざわざわと、さわがしげな人の声や物音がふもとの村からのぼってくる。笛や太鼓の音も聞こえる。
 腹がふくれたトキは、「ふうっ」と大きな息をもらした。満足げに「ふう、ふう」言っているトキを、かあちゃんはやさしげに見た。
 だらりと前に足を投げだして、下の里の明かりをながめていたトキ。祭りの夜のにぎわいがなにやら楽しげで温かそうで、体がむずむずしてくるのを感じた。

「ねえ、ちょっとのぞきにいくだけでもいけない? こっそり、物陰からのぞいてくるだけでも」
 かあちゃんは、とんでもない、というふうに、険しい目をして小さく首を横にふった。

 トキは、吸い寄せられるように祭りの火を見ている。かあちゃんはほら穴の奥を見つめた。思案するような顔になり、黙り込んだ。
「見たいのね。見てくるのもいいかもしれないね。人間たちのことについて口であれこれ言うばかりで、間近に見せたことはなかったね。祭りの晩は混み合ってて、人のほうからは見えにくいだろうし、こっちからのぞき見るにはちょうどいいかもしれない」

「ちょっと待っていなさい」
 そう言い置いて、かあちゃんはほら穴に入っていった。
 しばらくして、かあちゃんは布包みを持って出てきた。布の両端を背中へまわし、首の前でくくった。
「さあ、見に行きましょうか」
「うん」

 かあちゃんは足で砂をかけて火をおとした。

 トキの手を引いて山道をくだるかあちゃんは、嬉しそうな顔をしている子供を見おろした。うなずき、満足げな顔を見合わせて、ふたりしておりていった。

2.

 かあちゃんが先に立ち、神社の裏手の山から、ふたりは藪をかきわけかきわけ、おりていった。
「鬼払いの儀式がもう始まってるね。早く行きましょう」

 本殿前の広場にある舞台をとりまいて、大勢の人がひしめきあっている。ふたりのいる斜面からは広場全体が見わたせなかったが、そうとうな数の人間がいるのがわかった。
「うわあ、たくさんいるんだ」
 トキは、今まで一度にこんなたくさんの人間を見たことがなかった。

「ほら、そこ、やってるよ」
 かあちゃんの指さすほうに仮設の舞台があった。光が舞台に集められ、手前ににいる人たちはすべて黒っぽい陰になり、背を見せて立っている。みんな、舞台上で異様な姿かたちをした人間ふたりが暴れてるのを、くいいるように見ている。

 真っ赤な体と、真っ青な体。ふたりとも腰に虎皮模様の布を巻いている。ちぢれた髪から二本の角を突き出し、大きく裂けた口からは牙がはみだして、こっけいなほどいかつい顔をしていた。おかしなしぐさをするたび、どっと笑い声が舞台をとりかこみ、はやし声があがる。
 トキとかあちゃんは、雑木林のかげからのぞき見た。初めて見るものに、わけがわからないながらも、トキは目を吸い寄せられた。

「あれ、なんなの?」
 指さすトキに、かあちゃんは忍び笑いをもらした。
「あれね、鬼なのよ。鬼の役をやってる人間なの」
「鬼ぃ? あれがぁ?」
 トキは不思議な思いにとらわれた。かあちゃんとはまるで似てないのに、あれが鬼なんて。

 舞台の上では鬼が荒れ狂って、縁台や積み上げた木桶をひっくり返している。
 おたふくやひょっとこの面をつけた男女が、ほうきや熊手を持って、舞台にあがってきた。広場につどう人間たちは、いっせいに手を打ち鳴らした。熊手をふりかざし、おおげさな身ぶりで鬼をたたいたり、はたいたりするしぐさに、境内はどっと笑い声がわいた。

 舞台脇の階段からころげ落ちるように鬼がおりてきた。人間たちはよけて道をあけつつ、やんやとはやしたてた。ほうきを振りまわしながら追う男女と、頭をかかえて舞台の周囲を逃げまどう鬼。広場はいちだんとにぎやかになった。

 トキは、見ていてたまらなくなった。
「鬼の役の人、かわいそうだよ」
「いいのよ。ただのお芝居なんだから。だれもほんとうにいじめてはいないのよ」
「こんなの見たくないな」
 トキはうつむいた。
「それじゃ、参道の夜店を見に行きましょう。あっちは楽しいよ」

 密に茂った木の枝をくぐって参道へ向かうと、ひときわ明るく輝いた道が見えた。
「どう? にぎやかで、面白そうでしょう」

 草やぶの間から、トキは斜面の下の参道を見た。明るい光に照らされた夜店が長く連なっている。人の顔も表情もはっきり見える。大人や子供、いろんな服を着たいろんな人間。実にたくさんざわざわと、道の両側にならぶ店の間をねり歩いている。道幅が狭く、歩こうとする人と立ち止まって夜店の品物を物色する人とが押し合っている。
 お店は菓子、おもちゃ、金魚すくい、風船つり、スマートボール。裸電球の光のもと、きらきら華やかに照らされる。トキのいるところとは別の世界をのぞき見ているようだった。いつまで見てても飽きそうになかった。

「どう、面白いでしょう。たっぷり見られる機会はめったにないから、ちゃんと見ておくのよ」
 わぁわぁとわめいてゲームに夢中になっている子供。父親に肩車されている女の子。綿菓子に食らいついている子供たち。

「あれ、何なの?」
 トキの指さすほうには、小さな女の子が手にしている、棒にさした白い菓子があった。

「あれはね、飴細工。動物の形に作った食べ物」
「ふうん。いいなあ。あんなの、いいなあ」
 トキの顔がしだいに物欲しそうになってきている。

「欲しいの、ああいうの」
「うん」
「そうだろうねえ。欲しがるだろうと思ったよ」
 かあちゃんは、首にかけていた布包みをほどいた。服や靴が出てきた。

「これを着てみなさい」
 見慣れないものを前にして、トキは何をどうしていいかわからなかった。
「まず、着てるものを脱ぐのよ」
 トキは、かあちゃんのいうとおりに、着ているボロをとった。そして人間の子供が着ているものと同じものを、順々に身につけていった。シャツ、長ズボン、コート、毛糸で編んだ帽子、毛糸の手袋、毛糸の首巻き。体全部が隠れるほどおおわれてしまって、きゅうくつで気持ちよくなかった。

「これに足を入れて」
 靴というものを、トキは生まれて初めてはいた。
 かあちゃんはクシでトキの髪をといて、前のほうに垂らした。
「いい、じゃまでも髪の毛は前に垂らしておくのよ。それからこれ、マスクを口に」

 白い大きなマスクを耳から耳へとかけられた。
「ううん」
 口をふさがれたトキは、いやがった。
「だめだめ、赤い顔を人に見られるわけにはいかないの。隠さなきゃいけないのよ。わかるよね、いい子だから」
「う、うん」
「とっちゃだめよ、人のいるところでは」

 かあちゃんはトキの前へまわって見、後ろから見て、じっくり点検した。人間の子供に見えているかどうか、鬼の顔に見えないかどうか。あちこちいじって直して、ようやくのこと、満足したように淡い笑みを見せた。

 かあちゃんは、ひもをつけた小さなきんちゃく袋をとりだして、トキの首にかけた。ひらいてみると、6枚の銀色の硬貨が入っていた。
「何枚出さなきゃいけないかわからないから、だれかが出した時に枚数を見て、トキも同じだけ出しなさい。全部渡してしまってはだめよ。さあ、行ってみてごらんなさい」

 背中を押されたトキは、不安げにふり返った。
「かあちゃんは? かあちゃんは行かないの?」
「かあちゃんは行けないの。大人用の服がないから。こんなかっこうを人間の前に出せないでしょ。ここで見ててあげるから、ゆっくり見てまわったらいいよ。お金はなくなってしまうまで使ってもいいからね。さあ、行ってらっしゃい」

 トキは、慣れないものを身にまとって、ぎくしゃくと斜面をおりた。白いものがはらはら落ちてきた。
「トキ、気をつけて。顔を見られないようにね」

 雪がちらつき始める中、ぎごちない足どりで夜店の列に向かう後ろ姿を、トキのかあちゃんは心配そうに見守った。

3.

 大人や子供が入り乱れ、右へ左へとゆれ動く中、トキはなかば押されるようにして歩いた。大きく目をみひらき、首をクルクルまわして、目につくものをなんでもかんでも見た。
 何もかもが初めて見るものばかりで、珍しくて不思議できれいで、いちいち見とれてしまう。夜空の下でこんなに光があふれているのを見るのも生まれて初めてだった。

 降ってくる雪に光があたり、小さくゆらめきながら落ち、地面にあたると同時にはかなく消える。夢の世界を歩いてるように足元がたよりなく、体は右へ左へとふらついた。
 人の体がぶつかってくるたびに、トキはピクンと身をすくませた。相手はいっこう気にしていないようで、ふりむきもせず歩み去っていく。だあれもトキのことなんか気にとめない。心配だったけど、人間の中に鬼の子が混じっていることを、だれひとりとして気がつかないみたいだ。少し自信を持った。

 動物の白い飴を売ってるお店はどこだろう。そう思ってさがすのだけど、見つからない。飴を持っている子供もなかなか見当たらない。
 タコ焼き屋の脇に置かれた木箱に座ってる女の子が、棒の先に小さく残った白い飴をなめていた。それだ、と、トキは心の中で叫んだ。

 どこで売ってるのかを聞くことができず、じっと見るだけ。
 ふいに女の子は顔をあげ、トキと目があった。トキは勇気を出して手を突きだし、女の子の手にある飴を指さした。女の子はぽかんと口をあけたまま、飴とトキの顔を交互に見た。女の子のほうけた顔がふいに横をむき、向かいのタイ焼き屋のとなりで店の片づけをしていたじいさんのほうを見やった。
 店の前の看板に、犬や鳥などの動物の絵がいろいろ描いてある。ここだ、このお店だ。

 トキはおずおずとおじいさんの店に近寄った。おじいさんがトキに気がついてくれるまで、じっと前に立って待った。
 おじいさんが目をあげてトキの姿に目をとめた瞬間、トキはさっと動物の絵を指さした。
「なんだ、飴かい。もうおしまいなんだよ、ぼうや。ぼちぼち祭りも終わりだし、雪も降ってきたからな。さっき火をおとしちまったから、もう作れないんだ。悪いな。また今度だわな」
 おじいさんは看板をパタンとたたみ、ケースにしまいこんだ。

 トキはがっかりした。でも、握ったきんちゃくの中で硬貨のカチャカチャいう音を聞き、これで何か別のものを交換してもらえばいいやと思った。
 いろんな種類のおいしそうなにおいが四方からぷんぷんにおった。甘い空気がただよい、うれしくなる。あんこをたっぷり乗せた串団子だ。となりのお店は大きなせんべいだ。風船がある。ジュースがある。甘栗がある。
 いざ買おうと思うと、ドキドキする。どれにしようかと目移りして、決められない。いろいろ見たくて、あちらこちらとうろつきまわった。そのうち、ずいぶんと歩いたことに気がついた。

 夜店は境内一帯に広がっていた。どこをどう歩いて、どう曲がったのかを忘れて、方角もわからなくなった。キョロキョロ見まわしたけど、かあちゃんがいるところもどっちのほうだかさっぱりわからない。
 祭りは終わりかけていた。しまいだす店が目立つ。

 バタバタとあわただしく店を片づけていたおじさんが、店の前で行ったり来たりしてるトキに気づいた。
「どうしたい、ぼうや、ひとりっきりで。家族とはぐれてしまったのか」
 トキをに声をかけたおじさんは、丸顔で丸い眼鏡をかけた小柄な人だった。

「だれといっしょに来た? おかあさんとか、おとうさんとか。家族みんないっしょか」
「かあちゃんと」
「そうかそうか、おかあさんとはぐれたのか。ああ、雪がきつく降ってきやがったな。こっち入りなさいよ。雪まみれになってしまう」
 手招きされたので、おっかなびっくりテントの中に入り、意味なくテントの屋根や空っぽの展示用ガラスケースをキョロキョロ見た。

「もうちょっとしたら人出も少なくなる。そしたらおかあさんが見つけてくれるだろう。じっとここで待ってたらいいよ。大きなマスクして、風邪をひいてるのか。炭火が残ってる。まだじゅうぶんあったかいから、火にあたりなさい」
 おじさんは七輪のやかんを地面におろした。
 トキは、優しい、いい人だと思った。人間なんて、ちっともこわくないじゃないか。

「雪のぶんだけ早く終わっちまったなあ。いつもだとまだにぎやかで、人もたくさん残ってるもんだが。手袋なんて、とりなよ。じかにあったまったほうが風邪ひきを吹きとばしてくれるぞ」
 言われるまま、トキは手袋をとった。

「おい、しもやけか。真っ赤じゃないか。ちょっと見せなさい」
 トキは自分の手を見、そしておじさんの手を見た。そのとたん、トキはぎゅっと、はらわたが締めつけられるような感じがした。おじさんはトキの両手をとって、じいっと見ている。

「鬼の子か」
 トキはこわくなって、ぶるぶる体がふるえた。逃げたかったけど、手をしっかりとられていたので、動けなかった。

「そうか、そうだったのか。こわがらなくていいよ。見かけが違ってるほどには、ほんとは違ってないんだから。何が鬼かなんて、人の気持ちひとつだ。そうだ、りんご飴をひとつやろう。売れ残った最後の一本だ。持って帰るつもりだったけど、あげよう」
 手渡されたりんご飴は、つやつやして赤く輝いていた。

「どうだい、きれいでおいしそうな色だろう。おまえの手よりも、ずっと赤いぞ」
 おじさんは手袋をトキの手に握らせた。
「さあ、これも忘れずに持って、帰りなさい。おかあさんは今ごろどこかでやきもきしながら待っていることだろう。行きなさい」

 体をひるがえし、だっと、トキは走った。うしろをふり返らず、手袋とりんご飴をだきしめて一目散に走った。雪の舞い散る中、雑木林めがけてとびこんだ。
 なおも走り抜けようとするトキを、横からとびついて、がしっとつかまえるものがあった。トキはもがいた。

「トキっ、かあちゃんよ」
「かあちゃんっ」
 トキは顔を見上げ、しがみついた。

「見えないところまで行ってしまうもんだから、心配したよ。大丈夫ね。さあ、帰ろうか」
「うん」

 トキとかあちゃんは、手をとりあって深い森の奥へ入っていった。

4.

「こわかったんでしょう。あんなにあわてて逃げてきて」
「ううん。こわくなんかないもん」
「それじゃ、来年もまた行く?」
「うん。行く」

 雪の降り積もる中、トキはかあちゃんに手をひかれ、尾根道を歩いて帰った。
 木々がきれて下の村が見えた。トキは神社のほうを見やった。
 店の明かりはほとんど消え、本殿の照明と、参道の祭り灯籠のあわい光だけになっている。境内は、あんなに明るくにぎやかだったのがうそのように、わびしく静まりかえっていた。

 祭りのにぎわいを思い出しながら、トキは真っ赤なりんご飴を一口食べた。甘くてすっぱくて、夢のような味がした。

 〈了〉


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